残酷に理屈はいらぬ!ただ感じよ!『ビヨンド』ネタバレあらすじや感想・解説

ホラー

『ビヨンド』ネタバレあらすじ

プロローグ

1927年、ルイジアナ州のセブン・ドアーズ・ホテルにシュワイクという画家が逗留していました。
シュワイクが自室で絵を描いていると、そこへ武器を持った大勢の男たちが乱入して来ます。
シュワイクは「このホテルは呪われた門の上に建っている。それを救えるのは自分しかいない」と言いますが、普段からそのような言動をこころよく思わない町の男たちは、逆に彼のせいでホテルも町も呪われてしまう、と考えていました。
男たちはシュワイクに何度も鉄の鎖を打ち付けます。
シュワイクの体中で皮と肉が引き裂かれ、血が噴き出ました。
男たちはなおもシュワイクを磔にし、両手に杭を打ち込むと、沸騰した白い液体(生石灰に水を加えて水和反応させたもの?)を顔に浴びせます。
あわれ、シュワイクの顔面は湯気を立ててドロドロに溶けるのでした。

同じ頃、メアリーは自宅の居間で「エイボンの書」を発見します。
それにはシュワイクの言う地獄の門について書かれていました。

不吉な予兆

時は経ち1981年、ホテルだった建物の所有権はリザという女性に相続されました。
リザは荒れ果てたホテルを改装し、ホテルとして営業を再開するつもりでいました。
そんな中、外壁塗装をしていた職人が、白い眼をした女を目撃し、驚きのあまり足場から落下して重傷を負ってしまいます。
すぐに医師のマッケーブが呼ばれ、職人はマッケーブの車で病院へ搬送されることになりました。

ホテルは水道も故障しており、地下室も水没していたため、配管工のジョーが呼ばれました。
ジョーが浸水の原因を調べるため地下室の奥深くへと進んでいくと、壁に空いた穴から突然腕が出現し、目玉を抉られてしまいます。
ジョーの死体は使用人のマーサによって発見されますが、ホテルの地下からはさらにもう一体、シュワイクと思しき古い死体が浮かび上がってきました。

外出していたリザは盲目の女性メアリーと出会います。
二人は初対面なのに、メアリーは何故かリザのことを知っているようでした。
メアリーはリザを自宅に招くと、この町を出るように警告します。

不幸の連鎖

ジョーの遺体は町の病院に安置され、遺族である妻と娘が呼ばれました。
その傍らにはあのシュワイクの死体もあります。
妻がジョーに死装束を着せ、ふとシュワイクの死体を見ると、それが動いていたのか、悲鳴を上げます。
と、同時に何故か棚の上の瓶が倒れ、濃硫酸が妻の顔を直撃しました。
悲鳴を聞きつけ娘のジルが駆けつけると、母の顔を溶かし尽くし血の波となった濃硫酸がジルに押し寄せます。
逃げ場を求めて死体安置所の扉を開けたジルでしたが、そこにも蘇った死体がおり、襲われてしまいました。


リザとマッケーブは町中で偶然再会し、カフェで談笑していました。
リザのホテル再建計画はスタートから事件続きでしたが、リザは生活のためにも中止するつもりはないと断言します。
そこへ、マッケーブに病院での惨劇を知らせる電話が入りました。


突然両親を失い、年端もいかない少女でありながら天涯孤独となってしまったジル。
葬儀では誰もが彼女に同情しますが、すでに死者に襲われたジルの眼は白く、人間ではなくなっていました。

呪われたホテル

リザが警告に従わず、ホテル再建を続け町からも出ないため、メアリーはホテルを訪れ、リザにこの場所がいかに危険かを訴えます。
ホテルは呪われた門の上に建っており、50年前にその秘密を探っていたシュワイクは町民によって殺され、その時ホテルに居合わせた者全員もまた死体で発見されたのでした。
折りしも、メアリーはシュワイクの気配を感じ、彼の殺された36号室から呼出ベルが鳴りました。
しかし、都会育ちのリズにとって非科学的な現象は信じることができません。
そうこうしているうちに、メアリーはシュワイクの絵画を触った手が血塗れであることに気付き、恐怖のあまりその場から駆け出して行ってしまいました。

翌朝、メアリーの話が気になるリザはシュワイクが住んでいたという36号室を調べてみることにしました。
50年間手つかずであった部屋にはエイボンの書があったばかりでなく、リザは浴室で両手に杭を打たれたシュワイクの死体を目撃します。
その場から逃げ出したリザでしたが、マッケーブを連れて再度部屋を見てみると、死体も本も跡形もなく消えていました。

リザからホテル再建を依頼された建築家マーティンはホテルの設計図を探しに図書館へ行きます。
マーティンが梯子を上って設計図を見ると、ホテルの地下に謎の空間が存在することが分かりました。
ところが、その瞬間雷鳴が轟き、驚いた拍子に梯子から落ちてしまいました。
マーティンが気絶していると、どこからともなくタランチュラが現れ、眼や舌、顔中の肉を喰い尽くされてしまいます。
そしてホテルの設計図は消え、白紙になってしまうのでした。

⇦セブンドアーズホテルの設計図。(見方がよく分からない…)謎の空間とは中央の空白を指すのか…?

⇦今回は図書館員を演じるフルチ御大(ノンクレジット)。どことなく柔和な印象。

メアリーの最後

リザからメアリーの話を聞いたマッケーブは、彼女の家と思しきコロニアル様式の家を特定します。
しかし、そこは何十年も人が住んだ形跡のない廃屋でした。
マッケーブはそこでエイボンの書を発見し、地獄の門の存在を知ることになります。
そして、病院に安置してあるシュワイクの死体が気になり調べてみると、果たしてその腕には杭の痕とエイボンの書のシンボルが刻まれていました。

その頃、ホテルの使用人マーサが36号室を清掃していると、浴槽から死んだジョーが出現しました。
マーサはジョーに頭を掴まれ、後頭部から壁の釘に叩きつけられます。
釘が貫通し、マーサの眼球は串刺しとなりました。


自宅にいたメアリーは、シュワイクやジョーをはじめとした生ける死者たちに包囲されます。
メアリーもまたシュワイク同様この世の者ではなく、リザへの警告もシュワイクの指示によるものでした。
メアリーが地獄の門とホテルの関係について話してしまったからなのか、リザがその警告を無視したからなのか、あるいはシュワイクと決別したがっていることが許せないのか、シュワイクは死者たちとメアリーを襲います。
メアリーは盲導犬のディッキーに助けを求め、ディッキーは忠実に主人を守り、死者たちに噛みつきました。
死者たちは退治されましたが、突然ディッキーはメアリーの喉笛を喰い破ります
ディッキーはすでにシュワイクに取り込まれていたのでした。

彼岸へ

使用人のマーサとアーサーの姿が見えないため、リザはホテルの地下で二人を捜していました。
すると、すでに生ける死者となっていたアーサーが足にすがりつき、リザは必死に逃げます。
その時、彼女を心配したマッケーブがホテルに駆けつけて来ました。
最初はリザの言うことが信じられないマッケーブでしたが、実際に地下で血の雨等の怪奇現象に遭遇し、二人でホテルから逃げざるを得ませんでした。

マッケーブたちは、病院で同僚のハリス医師に相談しようとしましたが、町にも病院にも人の姿がありません。
自室でリボルバーを装備したところで、大量の死者が二人に襲ってきました。
迫りくる死者たちを撃ち倒し、マッケーブはようやくハリスに会えたものの、脱出のために窓ガラスを撃ったところ、突風によりガラス片がハリスに突き刺さり死んでしまいます。
リザは死体安置所に逃げ込み、そこでジルと再会しました。
3人は合流して逃げますが、いくら撃っても死者の数は減らず、次第に追い詰められていきます。
ついにジルもリザに襲いかかったので、マッケーブに撃たれ頭部を破壊されました。

リザとマッケーブは最後に病院の地下へ逃げ道を求めます。
しかし、地下へ降りた二人が辿り着いた場所は、何故かあのホテルの地下室だったのです。
壁の穴を抜け、二人が進むと、ふいに開けた場所に出ました。
そこは荒涼とした、死体以外に何もない大地、シュワイクが描いた絵の通りであり、すなわち地獄の門の先にある世界でした。
リザとマッケーブがどの方向へ向かおうと同じ景色が続き、もはや戻ることもかないません。
二人の眼はいつの間にか白くなり、やがてその姿も消えていきました…。

『ビヨンド』感想 残酷に理屈はいらぬ!ただ感じよ!

「地獄の門」三部作の第二弾である本作もまた、ルチオ・フルチ監督黄金期の作品であり、『サンゲリア』・『地獄の門』に並ぶ最高傑作のひとつであることは間違いありません。
今回はさらに残酷描写のバリエーションが増え、そのためには道理も脈絡もスッ飛ばす、ご都合主義という言葉すら生ぬるい展開が続くことになります。
解剖室の棚の上に濃硫酸の瓶が蓋もなく置かれて倒れる、図書館にタランチュラ(見たところ種類はメキシカンレッドニー)が巣くい人間を食べる、どう見ても22口径ぐらいの威力しかなかったマッケーブの銃がジルを撃ったときだけショットガン並みの破壊力で頭部を爆発四散させる等、もはや理屈を全て捨て、小学生の思いつきをそのまま映像化してしまったかのごときショックシーンが盛り沢山なのです。
しかもストーリーもまあ、あってないようなものですし、脈絡もないから、単に残酷なイメージの羅列(例えばルイス・ブニュエルの『アンダルシアの犬』のような)と言ってしまえばそれまでかもしれません。
しかし、フルチ作品好きからすれば、これこそがエンターテインメントであると言えましょう!
普通はここまで吹っ切れるものではありませんが、気の利いた残酷描写があれば、そこに至る過程や理屈は二の次であるのです。
ジョーの妻の顔が絵の具のように溶け出す様や、ジルの顔の上半分が粉々に吹き飛ぶ瞬間、極めつけはマーサが逆サンゲリア(木片眼球刺しに対して)とでも言いましょうか、後ろから刺されて眼球が飛び出すシーンに心躍らぬ人はおりますまい。


ただ、それにしても今回はさすがに消化不良の部分も多く見られました。
本作のメインビジュアルともなっているメアリーの正体は不明だし、シュワイクも何がしたいのかよく分からない。
先代のオーナーの頃からホテルの使用人をしているマーサとアーサー親子も、絶対にホテルの秘密を知っているはずだし、やたら不穏な雰囲気を漂わせているのに、あっさり死んでしまう。
地獄の門が開いたのも、シュワイクがリンチされたのがきっかけだとすれば、条件がゆる過ぎるのではないでしょうか?(しかも、世界に7か所ある門が全部開いたら地獄が現出するわけではなく、7か所どこからでも地獄にアクセス可能っぽい)
物語に幅を持たせたかったが、収拾がつかずに全部ぶん投げた感があります。

だが、それでもこのフルチ監督のジメっとした陰惨な世界観と独創性に富んだ残酷描写には、他では得難い魅力があります。
シナリオだけで判断すれば品のないホラー映画になりそうなところを、残酷という名の美を至上のものとしたある種の耽美主義的な作りによって、何か高尚であるかのように錯覚させられる、と私などは思います。
ファビオ・フリッツィによる美しくも重々しい劇伴も作品の質を高めているでしょう。
雑な作りで暴力的だが決して下品ではない、つまり正に「粗にして野だが卑ではない」という言葉が似つかわしいのです。(同じイタロ・ゾンビ映画でも例えば『ゾンビ3』と比較すると、本作がいかに上品であるか分かるでしょう)
このへんの雰囲気作りは次作の『墓地裏の家』でさらに質が上がっていることを実感できます。


また、タイトルにもなっている「あちら側の世界(すなわち地獄)」のシンプルながら絶望感に溢れた情景が秀逸でした。
分かりやすく業火に包まれた仰々しい世界ではなく、逆に何もないからこそ怖いのです。
そして、二人が理不尽にも地獄に取り込まれてしまうバッドエンドにも関わらず、悲しく美しいエンディング曲と相まって、何故かとても満ち足りた気分になってしまいました。
やはり本作は私の好みに非常に合致していると言わざるを得ません。
この傑作が一人でも多くの人に鑑賞され、後の世まで映像の進化に合わせ永久にソフト化されることを願い、まず私はうちの長男にこの作品の素晴らしさを理解してもらうことから始めようと思います。

解説 メアリーがホテルを出ていく回想シーンについて

劇中、リザに警告するためホテルを訪れたメアリーが、シュワイクの気配を感じ、なおかつシュワイクの絵画に触れた手に血がべっとり着いたことで恐れをなして逃げるのですが、その直後にリザがメアリーの走って出ていくところを何度も回想するシーンがあります。
これがけっこう尺を取っている割には分かりづらく、何を意味しているのか不明という声も聞かれますので、解説したいと思います。

結論から言いますと、これはメアリーの足音がしないことにリザが気付きハッとするシークエンスです。
リザはメアリーが出て行ってしまうのを呼び止めるために数歩、小走りになるのですが、その時にはドタドタと床板を踏む音がはっきりと聞こえます。
そこでリザは違和感を覚え、メアリーが無音で走り去る様子と、自分の靴音が響いたことを思い出し、愕然とするのです。
ニューヨ-クっ子だから非科学的なことは信じない、と言っていたリザもようやく彼女が普通の人間でないことを認めざるを得なくなったのでしょう。

それにしてもメアリーが何者なのかという点については劇中でも明かされていません。
分かっているのは、彼女が1927年の時点でエイボンの書を読み、その呪いによって不老不死、あるいはこの世の者ではなくなってしまい、視力も失ったことです。
後にシュワイクと死者たちに襲われた際には、もともとはシュワイクたちと何らかの関係性があり、その命令に従った(それがリザへの警告と思われる)ものの、彼らからは離れたがっていることがうかがえます。
ただ、残念ながらそれ以上のことは分からずじまいでした。
冒頭、外壁塗装の職人がホテル内のエミリーに驚き落下してしまったわけですが、彼女がなぜそんなところに居たのかも謎のままです。
本作において理屈は二の次なので、あまり細かい描写を要求するのもどうかと思いますが、メアリーは本作のキーパーソンでもあるので、もう少し設定を作り込んでいただけるとありがたい、という気はします。

考察 地獄の門のシンボルマークとシュワイクについて

シュワイクの腕や地下室の壁に刻まれたシンボルマークは、エイボンの書に記されているものでした。
もっとも、例によって深い意味はなく、何となく地獄の門に関係している程度の描写ではありました。
それによって地獄の門を封印しているのか、または逆に解放させるものなのか、あるいは単に地獄の入口の標識なのか、それを説明する描写はありません。

ちなみに、本作で『地獄の門』のエノク書のような役割であるエイボンの書ですが、これはかの有名なクトゥルフ神話の作品に登場する魔導書です。
クトゥルフ神話はH・P・ラヴクラフトとその友人たちによる壮大な作品群で構成されており、エイボンの書はその作者の一人であるクラーク・アシュトン・スミスの作品に登場します。(ラヴクラフト作品のネクロノミコンに相当するもの)
しかし、もちろんのことそれらの作品のエイボンの書に上記のシンボルは描かれていません。(そもそもエイボンの書に地獄に関する記述はない)
それもそのはず、このシンボルはフルチ監督のオリジナルで、監督の娘が腕に入れた稚拙な素人のタトゥーを基にしているからです。

ただ、このシンボルはまた惑星記号の木星あるいは土星 にも似ています。

木星 土星

これらの記号の角度を変えたり、反転させればエイボンの書のシンボルに近づくのではないでしょうか。
フルチ監督の娘の入れたタトゥーも、もしかしたら惑星記号だったのかもしれません。

また、数秘術的視点から面白い指摘もあります。
数秘術では名前も数字に変換して占いますが、アルファベットは下図の通りに変換されます。

そこで、先ほどの惑星記号の木星JUPITERを変換すると、1+3+7+9+2+5+9=36となり、なんとシュワイクの部屋番号の36となるのです。
そしてシュワイクの名前も、SCHWEICK⇒1+3+8+5+5+9+3+2=36で、これまた同じです。
まあ、この辺は単なる偶然で、たいした意味があるとは思えませんが。

ところで、メアリー同様シュワイクも行動原理がよく分からないままでした。
死後のシュワイクは何だかラスボス的な扱いでしたが、もともとは地獄の門が開かないよう努力していた人間のはずです。
それなのに偏見に狂った者どもが彼を殺し、それがきっかけで地獄の門が開いてしまうわけで、この皮肉に監督の偏見や差別に対する批判精神を感じます。
ところが、蘇ったシュワイクは町中の人間を襲ってゾンビ化しているようで、人間を救いたいのか滅ぼしたいのかハッキリしないのです。
怒りにまかせてこの世を地獄に変えてやる!というつもりなら、わざわざメアリーに命じてリザにホテル再建を止めさせる必要もないわけだし。
せめて『地獄の門』のトーマス神父ぐらい悪くて強いキャラクターであってほしかったです。

⇦耐久力だけは非常に高いシュワイク。攻撃力は弱い。石灰で溶けているせいで顔ものっぺりしており、強そうに見えない。