こういうのでいいんだよ、こういうので。『SISU/シス 不死身の男』ネタバレあらすじや考察・感想

アクション

考察 『SISU/シス 不死身の男』に登場する戦車や飛行機の種類は?

ナチスドイツが描かれる映画において兵器が登場するとなると、別にミリタリーマニアでなくとも特定したくなるのが人情というものです。
そこで劇中のドイツ軍の戦車及び飛行機について調べてみました。

①T-55戦車

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:T-M2B_at_Panzermuseum_Munster.jpg

ナチスドイツの象徴でもあり、本作で圧倒的な脅威となる存在の戦車ですが、実はこれはドイツ軍のものでもなければWWⅡ時のものでもありません。
劇中で使用された戦車はソ連軍のT-55です。
T-55はソ連において1958年から1970年代後半まで生産され「史上最も生産台数の多い戦車」とも言われています。
それだけに撮影で調達するのもきっと容易だったのでしょう。
ヤルマリ・ヘランダー監督も「シリアスな戦争映画ではない」ことを強調しており、別に戦車にリアルさを求める必要はなかったのです。

②ユンカースJu87スツーカ

https//www.flickr.com/photos/sdasmarchives/7304586746/in/set-72157629974581728/

ガソリンスタンドに給油のつもりで降りたら、結果的にアアタミを助けることになってしまったドイツ軍パイロット。
彼らが乗っていたのは急降下爆撃機のユンカースJu87スツーカだと思われます。
飛行シーンもほんの一瞬しかなかったうえに、アアタミが乗ったと思ったら次のシーンでは道路に突っ込むように不時着していたので、全身が映ることはほぼありませんでした…。
本作ではロシア製の兵器が多く見られることから、この飛行機もイリューシンIl-2ではないかとする説もありますが、Il-2はもう少し丸みを帯びたフォルムなのと水平尾翼の形も全然違うので、やはりJu87で合っていると思います。

③リスノフLi-2

ナチスでありながら、ソ連赤軍に逃走の飛行機を手配できてしまう辺りにブルーノ中尉の凄さというか狡猾さがよく表れていました。
Li-2はソ連の航空機設計者リスノフが、アメリカのDC-3旅客機の生産ライセンスを取得し改良したものです。
ソ連では第二次大戦時から1970年代まで長期に渡り輸送機として使われていました。
基本は輸送機ではありますが、この映画のように爆撃できるよう改造されることもあったそうです。
また、アメリカは第二次大戦時、DC-3の軍用タイプであるC-47をソ連に供与しているので、見た目もほぼ同じですし、あるいはC-47の方なのかもしれません。

『SISU/シス 不死身の男』ネタバレあらすじ

ドイツ軍との遭遇

1944年9月、フィンランドはソ連と休戦協定を結び、同国との継続戦争は終結しました。
ただし、ソ連の出した講和の条件は非常に厳しく、その一つが協力関係にあったドイツ軍をフィンランドの領土から即時撤退させることでした。
当初はスムーズに進んでいた撤退ですが、やがて衝突が起き、ドイツ軍はフィンランドを離れる際に破壊と略奪の限りを尽くすこととなります…。

老兵アアタミ・コルピは、愛犬ウッコと共にラップランド地方で金を採掘していました。
ある日、とうとう巨大な金鉱石を掘り当てたアアタミは、それを売るべく一路、街を目指します。
その道中、撤退するドイツ軍(本稿ではナチスではなくドイツ軍と表記します。国防軍はナチ党員ではないからです。)の部隊に遭遇しますが、彼らはアアタミが野垂れ死ぬだろうと高をくくって見逃しました。
ところが、次に出会ったドイツ軍たちはアアタミを徹底的に調べ、彼が金鉱石を持っていることに気付いてしまったのです。
アアタミから金鉱石を奪い、面白半分に彼を殺そうとする兵士。
しかし、老人と思って完全に油断している兵士は次の瞬間、アアタミによって頭をナタで刺し貫かれます。
残りの兵士も奪った銃で、ナイフで、ヘルメットで、アアタミに瞬殺されていきます。

先ほどの部隊はその銃声を聞き逃しませんでした。
SS(親衛隊)の将校ブルーノ中尉が不審に思い、Uターンすると兵士たちが全滅しています。
その中の一人が金鉱石を持っていたことから、アアタミが何を運んでいたかが判明してしまいました。
部隊はアアタミを追跡し、砲撃を開始しました。
アアタミは何とかドイツ軍の攻撃から逃れましたが、乗っていた馬が地雷を踏んでしまい、地雷原の真っ只中に放り出されてしまいます。
追い付いたドイツ軍はアアタミに銃の照準を合わせ、引き金を引こうとしました。
その瞬間を狙いすましたアアタミは地雷に石を投げ、辺りは爆煙に包まれます。
ドイツ軍はかまわず一斉掃射をしますが、その隙にアアタミは鍋を盾代わりにして巧みに後退します。
煙で周りが見えないため、兵士の一人が偵察に出ると、すかさず地雷が投げつけられ、木っ端微塵となりました。
地雷によってうかつに進めないドイツ軍を尻目に、アアタミは姿を消します。

執拗な追跡

ブルーノが落ちていた認識票を司令部に照会すると、アアタミの身元が分かりました。
アアタミはかつてフィンランド軍の特殊部隊に所属していた伝説の不死身の男で、ブルーノの部隊が数人殺された程度ならマシな方だと言うのです。

アアタミはトラックの残骸に身を潜めると、先ほどの戦闘で負傷した個所を治療しますが、ドイツ軍の部隊はすぐに追いついてきました。
アアタミは輸送車の下に潜りこみ車体を傷つけ、ガソリンをバラ撒きます。
犬の鼻を利かなくさせ、追跡を遮るためです。
そして、輸送車から離れると、ドイツ軍の攻撃をかわしながら川へとひた走ります。
アアタミはガソリンの浸みた体に自ら引火させると、そのまま川へ飛び込みました。

ドイツ軍は水中であろうと追ってきます。
しかし、逆にアアタミは敵の気管を食い破り、酸素を補給しました。
恐れをなした兵士が水中に潜るのをためらっていると、アアタミはそのボートを引っ張り、敵前逃亡に見せかけます。
兵士が敵前逃亡とみなされ射殺されると、アアタミはその死体を担いで向こう岸へ逃げました。
戦車からの機銃掃射は死体の盾によって防がれました。

なおもアアタミを追うブルーノの部隊に軍司令部から帰還命令が出されましたが、もはやブルーノは指示に従いませんでした。
すでにドイツの敗戦は疑いようのない事実であり、このまま命令に従っていても数ヶ月後には皆処刑されるのが目に見えているからです。
ならば金を奪って逃げることが唯一の生き延びる道だ、と判断したのです。

処刑

やがてアアタミが目にしたのは焦土と化したロヴァニエミの街でした。
一時の休息をとるアアタミの脳裏には、ソ連兵によって殺された家族の記憶がよぎります。
その時、途中ではぐれた愛犬ウッコの声が聞こえてきました。
再会を喜ぶアアタミでしたが、ウッコにはドイツ軍によってスティックグレネードがくくりつけられていました。
とっさに投げ返すも爆発に巻き込まれ、アアタミは気を失ってしまいます。

アアタミが目を覚ますと、すでにブルーノらに拘束され、首には縄がかけられています。
金鉱石は全て奪われてしまいました。
そのまま成すすべもなく縛り首にされたアアタミは今度こそ動かなくなります。
ところが、ブルーノらが去ると彼はまたしても動き始めたのです。
体を揺らし反動をつけると、自身の体の傷口を、吊るされた柱から出ている杭にめり込ませました。
そうして首にかかる重力を逃し、朝まで耐え凌ぎます。
夜が明け、爆撃機が給油のため近くに降下すると、その爆風で縄が落ち、アアタミは地面に落下します。
ドイツ軍パイロットがまだ息があるアアタミを発見し殺そうとしますが、逆に足を蹴られて転倒し、頭を打って絶命します。
アアタミはもう一人のパイロットを金鉱石で殴り気絶させると、満身創痍となった体の手当てを始めました。
全ての応急処置が済むとアアタミはパイロットを脅し、いよいよブルーノらに復讐を開始すべく、部隊を追うのでした。

皆殺し

ブルーノの部隊は、爆撃機が道路に不時着していることで足止めを食っていました。
慎重に機を調査すると、なぜかパイロットの死体には先ほどアアタミの首を縛った縄が巻き付いています。
危機感を覚えたブルーノは即座に部隊にUターンを命じます。

恐れをなしているドイツ軍たちに女性捕虜はアアタミの恐ろしさを説明し、「おまえたちはすでに死んでいる」と言い放ちました。
女性捕虜がそう言うが早いか、兵士の一人が突然ツルハシを打ち込まれ、車外に引きずり出されました。
アアタミによって輸送車両は奪われ、女たちに銃が渡されます。
反撃の時が来ました
女たちは別の輸送車両に横付けすると、マシンガンで乗っていた兵士全員をハチの巣にしました。

いよいよアアタミはブルーノらの乗る戦車へ攻撃を開始しました。
中からはブルーノの右腕ヴォルフが出てきてアアタミと組み合い、二人は地面に落下しながらも戦い続けます。
肉弾戦においても、アアタミの強さはヴォルフの比ではありません。
ヴォルフは観念し、完全に戦意を喪失しました。
その様子を見ていたバイク兵も即座に逃げ出します。
アアタミは敢えてヴォルフに止めを刺さず、乗り捨てられたバイクに乗ってブルーノを追いかけました。
ヴォルフはほっとしたのも束の間、自分がさんざん蹂躙してきた女性捕虜たちが武装して向かってくるのを見て、ただ悲鳴を上げて後ずさるのでした。

上空での戦い

ブルーノは逃走のためソ連赤軍の輸送機を手配していました。
しかも金を独り占めするため、ここまで生き残った部下さえも射殺したのです。
パイロットはブルーノただ一人と金鉱石を乗せ、発進しました。
アアタミが駆け付けるも一足遅く、機はすでに離陸を始めていました。
アアタミがマシンガンを掃射するも、機は空へと飛び立ちます。
しかし、なんとアアタミはツルハシ一本で輸送機にしがみつきました。
やがてアアタミはツルハシで輸送機に穴を開け、機内へと侵入します。
ブルーノと最後の一騎打ちが始まりました。
鬼神のごとき強さだったアアタミですが、殴り合いではブルーノにかなわず、一方的に痛めつけられます。
それでもアアタミは血まみれになりながら、何度でも立ち上がりました。
そして攻撃の一瞬の隙をつき、ブルーノの体にロープを引っかけると、もう一方を爆弾と繋ぎ、投下させたのです。
ブルーノは爆弾とともに地上に落ち、塵と消えました。
それと同時に輸送機はなぜか降下し始めました。
見ると、パイロットは先ほどの銃撃の傷で死んでいます。
おまけにパラシュートも空です。
アアタミはロープで体を固定し、墜落の衝撃に備えました。輸送機は落下し、四散しました。
それでも不死身の男アアタミは残骸が散らばる泥沼の中から這い出してきます。

次にアアタミはヘルシンキに姿を現しました。
愛犬ウッコも一緒です。
そして銀行に入り、初めて言葉を発するのでした。
「金を高額紙幣に変えてくれ。持ち歩きやすいように。」と。

感想 こういうのでいいんだよ。こういうので。

映画ライターギンティ小林氏の提唱したジャンル「ナメてた相手が殺人マシンでしたムービー」に新たなヒーローが誕生しました。
しかも本作の主人公アアタミ・コルピはもうタイトルで「不死身の男」と言ってしまっているので(邦題だけだが)、どれだけ殴られても、銃で撃たれても、爆発に巻き込まれても、縛り首にされても、絶対に死ぬことはありません。
もはやご都合主義とかいうレベルではなく、もう神話とかファンタジーの次元です
あるいはフィンランド魂「SISU」の概念の擬人化といったところでしょうか。
だからこそ、理屈を抜きにしてシンプルに悪を討つ展開を楽しめました。
少しばかり残酷描写がハードなのもサービス精神の発露というものでしょう。
このジャンルの例に漏れずストーリーなども取って付けたようなもので、「悪いナチスをやっつける」だけで説明できてしまいます。
ただ、こういったジャンル映画は他に何も必要とせず、本作も作り手の「分かってる」感が伝わってきて、思わず「こういうのでいいんだよ。こういうので。」とつぶやいてしまう良さがありました。

特に感心したのがパンフレットの表紙にも使われている日本版ポスター(本稿上部の画像)で、70年代感溢れる作りが本作の殺伐とした内容とマッチしており、配給会社が本作を正しく理解していることに嬉しくなりました。
おかげで買うつもりはなかったのに、パンフレットをジャケ買いしてしまいました。
この70年代風ポスターは、きっと高橋ヨシキ氏がデザインした「キル・ビル」の「ビルを殺れ!」ポスターに影響されたのでしょうね。

本作のタイトルである「SISU」とは、なんでもフィンランド語以外には翻訳が不可能だとか。
強いていえば英語のガッツに近いような、困難に立ち向かう勇気、粘り強さ、忍耐力、等のフィンランド人の不屈の精神を表した言葉らしいです。
大国ロシアとスウェーデンに挟まれ、常に支配者と戦ってきた歴史が、フィンランド人の強い精神力を育てたのでしょう。
主人公アアタミも戦闘が強いというより、絶対死なない、あきらめないといった部分が強調されています。
ボロボロになりながらも窮地を脱し、機転の利いた殺戮を繰り広げる様には惚れ惚れします。
何かつらいことがあった時、困難にぶつかった時はこの映画と「SISU」の意味を思い出し、敵の脳天にナイフをブッ刺す意気込みで頑張りたいものです。